夕方にフェリーが出航した。
デッキに出ると、海の向こうにゆっくりと陽が沈んでいく。空はオレンジ色、海面には夕焼けが細く長く伸びていた。船が進むたび、その光も少しずつ遠ざかっていく。
海の旅というのは、不思議だ。
陸の上を移動しているときとは違って、景色が少しずつ遠ざかっていく。その場所に戻ることもできるはずなのに、船が進んでしまえば、もう簡単には引き返せない。
だからなのか、海を眺めていると、どこか切ない気持ちになる。
今回の帰省は、いろいろなことがあった。
楽しかったこともあれば、考えさせられることもあった。嬉しいことだけではなく、心に引っかかったこともあった。帰る前には見えていなかったものが、帰ってみたことで見えてきたような気もする。
そんな時間をひとつひとつ抱えたまま、今、フェリーは海の上を進んでいる。
さっきまで見えていた夕焼けも、もう暗闇の向こうへ消えてしまった。
切なさというのは、必ずしも悲しさではないのかもしれない。過ぎてしまった時間や、そこにいた人、交わした言葉、心に残った出来事。そういうものを大切に思うからこそ、少し寂しくなる。
海は、そうした気持ちを静かに受け止めてくれる。
今はそのままでいいような気がする。
船は、何も急かすことなく、次の場所へ向かっている。
僕もまた、少しずつ前へ進んでいけばいい。


