芸術は、舞台の上やモニターの中に閉じ込められているものではない。
もちろん、照明の下で光を放つ演技や、美しく編集された映像作品に心を動かされることはある。だが、芸術はもっと日常に根を張っているものだと思う。たとえば、誰かの何気ないひと言、ふと目に入った夕焼け、誰かが手渡してくれた小さな花、美味しいご飯。そうしたものにも、芸術のような輝きが宿ることがある。
それに気づかず、どこか遠くにある「もっと良い何か」を探し続けることがある。
自分には足りない、ここにはない、今じゃない——そんな思考の連鎖が、心をどんどん遠ざけてしまう。しかし、本当は足元にこそ、大切なものがあるのではないか。そこにあるものをちゃんと受け取ることができたら、選ぶ行動も、言葉も、少し違ってくるのかもしれない。
今の状況が厳しいとき、人はどうしても視野が狭くなる。
それは当然のことだ。しかし、もしその上に「見方」までもが自分を追い詰める方向に傾いていたなら、心はますます疲れてしまう。きっと、これは若い頃だったら、気力と体力で押し切っているのだと思う。
年齢を重ねた今、体力も気力も変わってくる。それは衰えではなく、進化である。
変わるということは、新しい視点を持つチャンスでもある。今までの「がんばり方」を見直し、「力を抜く勇気」を手にすることも、大人の選択だと思う。
遠くを見すぎず、足元に目を向けてみる。
すると、意外なほど豊かな景色が広がっている。
芸術は、きっとそこにも息づいている。