ゲネプロを終えたばかりのステージと舞台袖の空気には、まだ熱がこもっていた。
遠くでスタッフと演出家が声を交わす。
客席は空っぽなのに、観客に見つめられているような緊張があった。
いよいよ明日は本番だ。
セリフの一つひとつ、立ち位置の一歩一歩を反芻するたび、まだ噛み合っていない部分もある。
完璧には遠い。でも、それが今の自分の“現実”なのだろう。
この不安も焦りも、舞台に立つ者の宿命のようなものだ。
明日、幕が上がればもう後戻りはできない。
暗転の中、わずかな呼吸音だけが世界を満たすその瞬間を思い浮かべる。
照明が再び灯り、視界が白く焼ける。そこに立つのは、誰でもない自分自身だ。
緊張も、未完成さも、すべて抱えたまま、ただ物語の中で生きる。
明日はどんな自分がそこに現れるのだろう。
観客の息づかい、仲間の視線、光と影、その全てが渦を巻く中で、自分として立ち続ける。
全身で、たった一度の時間を生き抜くために。

舞台「シン・ハリマオ」は、10月11日(土)と12日(日)の両日14時から、さざんぴあ博多の多目的ホールで上演される。会場は西鉄雑餉隈駅から徒歩2分、JR南福岡駅からも徒歩圏内というアクセスの良さを誇り、客席から舞台が間近に感じられる親密な空間である。
この舞台で描かれるのは、マレー半島を舞台に「義賊」として語り継がれた男、谷豊――後に“ハリマオ”と呼ばれた人物の人生である。1911年、福岡の理髪店の家に生まれた谷豊は、幼くして家族とともにマレーへ渡り、やがて妹の悲劇をきっかけに義賊としての道を歩み出す。弱き人々を救い、権力に立ち向かうその姿は民衆に希望を与えたが、時代は彼に苛酷な運命を強いた。
やがて日本軍の諜報機関に協力し、植民地支配や民族の対立の渦中で翻弄される彼の人生は、信念と裏切り、忠義と悲哀の狭間で揺れ動いていく。30代という若さでマラリアや栄養失調に命を奪われた後、人々は彼を「大東亜の英雄」と呼び、その名を伝説として語り継いだ。
観客の皆さまには、この二日間だけ体験できる特別な物語を、どうか一緒に見届けていただきたい。10月11日と12日、午後2時、さざんぴあ博多にて、皆さまのご来場を心よりお待ちしております。

