本日は、見えない演劇「時の崖」にご来場いただきありがとうございました。おかげ様で満員御礼、大盛況のもとで終わることができました。今回は試験的な試みで実施させていただいたのですが、見ていただいたお客様よりあたたかいお言葉をたくさんいただきました。
まず、牛津赤れんが館の二階という非日常的な空間において、アイマスクを全員のお客様にしていただき、聴覚のみの情報により頭の中で演劇を見るという体験をしていただきました。視覚を閉ざしたら演劇が見え始め、そしてアイマスクを取ったら見えなくなるというコンセプトでした。演劇を決まった形で提供するのではなく、それぞれのお客様が自分の中で描いたものを見ていくということは、おそらく多くの方々にとって今まで体験したことのない感覚だったのではと思います。
さらに、我々演者は普段は見られるということをやっているのですが、今回は逆にお客様の方がアイマスクをすることで見られている感覚になったというコメントをいただきました。それは大きな発見であり、確かに、我々は演じながらお客様を見たり、語りかけたりをしていました。
また、安部公房の不思議な天才的な世界観を今回紐解くことができて、嬉しくもありました。実は、私は安部公房の芝居に関わるのは二回目であり、以前アメリカで英語に翻訳されたものにはなりますが「緑のストッキング」という作品に役者としてでたことがあります。安部公房が選んでいる言葉に生が宿ったかのように、今回も胸を躍らされました。今回の「時の崖」では、生々しくボクサーの感情の動きの変化を綴っている言葉に愛おしさを感じました。
我々はお客様に楽しんでいただくためにやっているのですが、それだけでなく演じる側としても、クラシック作品を紐解くことの学びは大きいとつくづく感じました。想像もできない世界を描き、名作とも言える作品も数々と残されていた巨匠たちがいます。これは日本における貴重な財産なのではないかと思います。
また、一つの演劇の旅を終えました。また、次に決まっている旅にも出発しますが、まだまだ訪れたことのない世界にこれからも踏み込んでいきたいものです。
この公演を実現することができた全ての皆様に感謝いたします。
今日の写真は会場に隣接するお庭にある田中丸善蔵翁の像です。ご存知の方も多いと思いますが、佐賀の老舗デパート玉屋の創業者です。この赤れんが館は、田中丸さんの所有する商売用の倉庫だったのです。公演の成功を見守っていただきました。