この街で生まれて、もうすぐ半世紀が経とうとしている。夜中の静けさに包まれた馴染みの街を歩きながら、実家へ向かう道すがら、頭に浮かぶのは懐かしい記憶の断片だ。
幼い頃、頭に傷を負い、駆け込んだ病院。その病院は今、別の名前を掲げている。その向かいに立つコンビニは、かつてはガソリンスタンドだった場所だ。病院の隣にあった幼稚園。小さな自分が遊び回ったその場所は、今ではただの駐車場に変わっている。
ふと笑ってしまう。「だっちょきん」と呼ばれた不思議な人物がいたことを思い出したのだ。誰も正体を知らなかったけれど、街の子どもたちの間ではその存在が妙に親しまれていた。家業を継いでいる知り合いの店が道沿いに目に入る。きっと頑張っているのだろう。そして、昔の親友が住んでいた家は、今では全く別の誰かが暮らしている。駄菓子屋があった角も、今では何も残っていない。
街は変わる。物事はこんなにもあっという間に姿を変えてしまう。50年後、いったい何が残っているのだろうか。
かつての自分は、佐賀に特別な感情など持っていなかった。ただ生まれ育った場所でしかなかった。でも、世界に飛び出し、様々な土地で暮らし、そして戻ってきた今、この街がまるで違う風景に映る。不思議な愛着が胸の中で静かに芽生えているのを感じる。
自分自身もまた、変わり続ける存在だ。今の自分が大切にしていること、感じている思い。それらも数年後には変わっているのかもしれない。もちろん、変わらないものもあるだろう。でも未来のことなど、誰にもわからない。
そんなことをぼんやり考えていた午前1時40分。寒さが肌を刺すようだ。ふっと笑みが漏れる。「こんな夜更かしをして、明日が大変だな…」夜空を見上げ、ひんやりした空気を吸い込みながら、歩みを進める。