お風呂上がりに、ふと額に滲む汗。ああ、もうそんな季節か。肌に残る湯気が、夜の空気に変わる間もなく、体はじんわりと熱を帯びている。いつの間にか、夏がすぐそこまで近づいてきている。
暑い夏は、どうにも苦手だ。陽射しは容赦なく照りつけ、空気は重たく、すべてが少しずつ息苦しくなる。気配を感じるだけで、どこか心がくたびれる。
その前にやってくる梅雨も、やはり好きにはなれない。空は重く、窓辺は濡れ、洗濯物は乾かない。湿った空気に包まれると、気持ちまで沈みそうになる。
だけど、不思議なことに——そんな季節に咲く紫陽花だけは、なぜだか心を和ませてくれる。小さな花びらが幾重にも重なり合い、雨粒を抱きながら、静かにそこにいる。青、紫、ピンク…移ろう色が、どこか儚くて、でも確かに美しい。
道ばたの陰、古いお寺の塀のそば、学校の片隅。どこで咲いていても、紫陽花は梅雨の景色の中で、ひときわ存在感を放っている。まるで、雨の季節にだけ現れる秘密の花のようだ。
じめじめとした日々の中で、心に少しだけ風を通してくれる紫陽花。そう思うと、梅雨もほんの少し、悪くない気がしてくる。
やがてやってくる夏本番。その前のこの一瞬を、紫陽花とともに静かに味わっていたい。