smell, odor, or aroma???

梅雨のため湿気が多い季節。古い建物は、その湿気をたっぷり含んで、独特の匂いを醸し出す。乾ききれない木材や、染み込んだ紙のにおい。古びた畳のわずかな青さがまだ残っている。日本に住んでいれば、それはもう防ぎようがないことであり、むしろそれがこの国の情緒の一部なのだとさえ思う。外から建物に入る瞬間に、まず鼻に届くのはそんな匂い。目で見るよりも先に、匂いがその場の歴史や時間を教えてくれる。

私は昔から、匂いに敏感だった。夕暮れどき、どこかの家から漂ってくる煮物の香り。どこからともなく漂う金木犀の匂い。冬の朝に鼻をつく、ストーブの石油のにおい。そういうものに、いちいち反応してしまう自分がいた。

だからと言って、それが何か特別な何かつながったわけでもない。強いて言うならば、自分自身の匂いにも敏感になってしまったということかもしれない。なるべく他者に不快な思いをさせたくなくて、知らぬ間に身の回りのものをすぐに嗅ぐ癖がついた。服、タオル、鞄の中。臭い匂いがしないだけで、ほっとする。

そうやって生きてきて、これも私の特徴なのだと最近改めて思うようになった。もちろん、同じような感覚を持っている人もどこかにいるのだろう。でもこれは、たぶんもう変わることはないし、変えようとも思わない。

しばらく前にアロマに出会ったのも、必然だったのかもしれない。香りひとつで気持ちが整う。好きな香りに包まれると、呼吸が静かになる。ざわつく頭の中が、すうっと静まっていくのがわかる。香りが、心の輪郭をなぞるようにして整えてくれる。

匂いに敏感であることは、ただの私の「性質」にすぎない。これからも私はきっと、世界を「匂い」で受け取っていくのだろう。雨の匂いも、誰かの家の夕飯の匂いも、初夏にふいに咲く花の匂いも。それらを拾い集めながら、今日もまた歩いていく。

香りの中に、私の輪郭は静かに浮かんでいる。

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