「おまじない」と聞くと、子どもの遊びや非科学的な迷信を思い浮かべる人も多いだろう。
けれど、誰かの無事を願ったり、演劇の本番前に深呼吸をして心の中で「大丈夫」と唱えることも、広い意味ではおまじないだ。
僕はそんな小さな儀式を、日々の中で無意識にも意識的にも繰り返している。
それは奇跡を起こすためではなく、心を整えるための行為なのかもしれない。
心理学では、こうした「儀式的行為」がストレスを和らげ、集中力を高める効果があると言われている。
たとえ科学的根拠が十分でなくても、「信じる」という行為そのものが、人を動かし、安心を与える。
心が体や行動に影響を及ぼすことは、決して珍しくない。
おまじないの語源は「まじ(魔事)無い」とも言われる。(※諸説あり)
つまり、災いや不安を遠ざけるための祈り。
そう考えると、人が願いを込めること自体、とても自然な営みだと思う。
毎日のように神社に足を運び、願い事をする。
そんな自分を「少し変なのでは」と思うこともある。
けれど、きっと誰もが形を変えて、おまじないのようなことをしているのではないだろうか。
信じる力が現実を変えるという単純なことではなく、
信じようとする心が、自分を少しだけ前に進めてくれるのだと、僕は思っている。
アメリカで演劇をしていた頃、本番を迎える役者に「Good luck(幸運を)」とは言わず、
代わりに「Break a leg(脚を折れ)」という言葉をかけていた。
それもまた、演劇の世界に伝わる一つのおまじない。
言葉の形は違っても、どの国の人もきっと、心のどこかで“無事と成功”を祈っているのだと思う。

舞台「シン・ハリマオ」は、10月11日(土)と12日(日)の両日14時から、さざんぴあ博多の多目的ホールで上演される。会場は西鉄雑餉隈駅から徒歩2分、JR南福岡駅からも徒歩圏内というアクセスの良さを誇り、客席から舞台が間近に感じられる親密な空間である。
この舞台で描かれるのは、マレー半島を舞台に「義賊」として語り継がれた男、谷豊――後に“ハリマオ”と呼ばれた人物の人生である。1911年、福岡の理髪店の家に生まれた谷豊は、幼くして家族とともにマレーへ渡り、やがて妹の悲劇をきっかけに義賊としての道を歩み出す。弱き人々を救い、権力に立ち向かうその姿は民衆に希望を与えたが、時代は彼に苛酷な運命を強いた。
やがて日本軍の諜報機関に協力し、植民地支配や民族の対立の渦中で翻弄される彼の人生は、信念と裏切り、忠義と悲哀の狭間で揺れ動いていく。30代という若さでマラリアや栄養失調に命を奪われた後、人々は彼を「大東亜の英雄」と呼び、その名を伝説として語り継いだ。
観客の皆さまには、この二日間だけ体験できる特別な物語を、どうか一緒に見届けていただきたい。10月11日と12日、午後2時、さざんぴあ博多にて、皆さまのご来場を心よりお待ちしております。

