演劇には、人を育てる力がある。そのことを、大学時代に演劇に出会った時からずっと信じてきた。観る者の心を動かし、演じる者の内面を揺さぶる。だが、それだけではない。演劇は教育の場においても大きな可能性を秘めている。
演劇を通じて最も養われるのはコミュニケーション能力と言われることが多くある。他者と協力し、相手の言葉を受け止め、適切に反応する力が求められる。台詞を覚え、感情を込めて表現することだけが演劇ではない。相手の演技を感じ取り、それに応じて動くこと、場の空気を読むこと、それらすべてが生きたコミュニケーションの訓練になる。
創造力や想像力を育むという点でも演劇は大きな役割を果たす。脚本をどう解釈し、どのように表現するか、舞台上の空間をどう使うか、そのすべてに自由な発想が求められる。特に子どもたちにとっては、枠にとらわれない表現の場として、演劇は学びの機会を広げるものとなるだろう。
演劇は自己表現の手段でもある。普段、自分の考えや気持ちをうまく言葉にできない人も、役を通じてなら自然に表現できることもある。その経験が、自信につながり、自己肯定感を高めるきっかけになる。演じることで他者の視点に立つことができるため、共感力や他者理解の力も養われる。異なる文化や歴史上の人物を演じることは、世界を広げる体験になる。
演劇にはチームワークを学ぶ要素が強く含まれている。作品を作ることは一人ではできない。他者と協力しながら、一つの作品を作り上げる過程では、責任感が育まれる。そして、演劇には「失敗から学ぶ」という大切な経験もある。舞台上でのミスは避けられないが、それでも続ける力、アドリブで乗り切る力が身につく。この「どうにかする力」は、人生のあらゆる場面で役立つものだ。
演劇は単なるエンターテインメントではなく、人を成長させる教育の手段であり、人生を豊かにするものだ。それは、舞台の上だけでなく、私たちが生きる世界そのものに影響を与えていくと私は考える。