どんよりとした曇り空に覆われた一日。窓の向こうに広がるのは、灰色に染まった景色。遠くのビルさえ、少しかすんで見える。気づけば、今日は一歩も外へ出なかった。
こんなふうに家に閉じこもるのは、いつ以来だろう。静かで、少し寂しいけれど、嫌じゃない。コーヒーカップから立ちのぼる湯気を眺めながら、心の奥がふっと緩む。
滞っていた作業を、机に向かって黙々と片づける。ひとつひとつを終えるたびに、積もっていたものが少しずつほどけていく。こんな時間が、必要だったのだろう。
掃除をして、洗濯機を回し、炊きたてのごはんをよそい、味噌汁をすすった。ただそれだけのことなのに、胸の奥が、ほっと温まる。当たり前のことが、当たり前にできることの尊さを、いつから忘れていたんだろう。
ずっと毎日がせわしなく過ぎていく。まるで、誰かに追いかけられているような、あるいは、自分で自分を追い立てているような。立ち止まることさえも怖い。けれど、今日という一日はちょっと違っていた。時には、立ち止まることでしか見えない風景もあるものだ。
生活は、勝手に整っていくものではない。日々の中で、意識して、手をかけて、ときに立ち止まりながら、少しずつ手直ししていくものなのだろう。
明日からはまた、忙しい日常が戻ってくる。でも、今日の静けさは、確かに私の中に残る。
何も変わらないようでいて、ほんの少し、私の暮らしは、息を吹き返した気がした。